先日、東畑開人さんのオンライン講座「さみしさの心理学-孤独学序説-」の第3回目の講座のアーカイブ動画を視聴した。
この講座は全5回で組まれていて、私は通しで受講できるプランを購入している。これまでの3回はどれも大変面白かったので、残りの2回もきっと面白くなると思う。それぞれ単回のチケットが購入可能なので、興味のある方はぜひ受講してみてほしい。
チケットはこちら☞さみしさの心理学-孤独学序説-
第3回のテーマは「さみしさの病理学-天国と地獄-」だった。メラニー・クラインという人の理論を下敷きにして、さみさの苦痛と破壊性、どうして人はさみしさに壊されてしまうのか、ということが語られた。
メラニー・クラインの理論の中心にあるのは「よい乳房、悪い乳房」という考え方である。
赤ちゃんがお母さんのおっぱいを飲んで満たされているとき、そこにあるのは「よい乳房」である。
しかし「よい乳房」を離れて段々お腹が空いてきたとき、赤ちゃんには「悪い乳房」が自分を攻撃してきているという思いに駆られるというのがメラニー・クラインの主張だ。
どういうことか。大人の私たちは消化器官の働き方を「満腹」「空腹」と捉えることができる。食べたばかりで消化器官が熱心に働いているときには「満たされている」と感じ、食後数時間して消化器官が「グーーー」と音を鳴らすと、「胃が空っぽなんだな」と思うことができる(そしてこれは勘違いだ。このときの胃は正確には「空っぽ」ではない。お腹がグーと鳴るのは胃に残った食物のカスや水分、腸内細菌を小腸へ送り出す運動が起こっているからである)。
赤ちゃんは自分のお腹がそういう「空腹のサイン」を送ってくることをまだ知らない。せっかく「よい乳房」で満たされていたのに、時間が経つと段々お腹の中に不快感が襲ってくる。それは大人が「空腹のサイン」として受け取る不快感なのだが、赤ちゃんはこれを「悪い乳房が攻撃してきた」と捉える。だからはやく「よい乳房をくれー」と泣いて要求するのだ。
私はこの「よい乳房、悪い乳房」の理論を知っていたのだが、この理論の重要性を認識してはいなかった。
しかし今回、この講義を受けたことでこの理論の重要性がわかった。なぜならこの理論は大人の我々にとって、とても重要なものだからだ。
たとえば私たちは友人や知人、パートナーからのLINEの返信が来なかったときに「なんで返してくれないんだろう?」と思う。パートナーに「今日は何時に帰ってくる?」と聞いたのになかなか返信がないと「さては浮気でもしているんじゃないか」とすら思ってしまう。
こういった心の作用はまさに「よい乳房、悪い乳房」理論に合致する。返信が早ければよいパートナーがそこにいて、返信がなければ悪いパートナーがそこにいると思ってしまう。未読スルーを単なる未読で済ますことができず、自分に対して不義理を働いているのでは?と思ってしまうのだ。
こういった相手が不義理を働いているかも、という不安が裏返ると相手が自分を攻撃していると捉えてしまう。
私はあなたを裏切っていない、なのにあなたは私は裏切った、それは私に対する攻撃だ。という理屈である。
しかし実際はそうでないことが多い。相手に自分を攻撃するつもりはないし、不義理だって働いていない。単に仕事が忙しくてスマホを見ることができなかっただけということもあれば、スマホを失くしてしまって必死に探していたという場合もある。
そういった背景をいくらだって想像できるはずなのに、私たちは自分の欲求が満たされないと「相手が自分を嫌っているのだ」「相手は自分に対して怒っているのだ」「相手は自分のことを裏切っているのだ」と、相手が自分を攻撃してくる妄想ばかり引き起こしてしまうのだ。
メラニー・クラインはその「よい乳房、悪い乳房」という二分を離れ、よいも悪いも一人の母が統合していることを受け容れることが発達のプロセスであるとする。
しかし私はこの講座から別のことを考えた。それはライフハック的になるが、「人に対してはなるべく自分が悪い乳房にならないようにした方がよいな」ということである。
LINEの話であれば、とにかくなんでもいいから返信をすること、というのは大事である。スマホを失くしてしまっていたらしょうがないが(それでもPCメールや公衆電話で電話するなど手段はあるが)、忙しくて返信できないときはスタンプの一つを返しておくことが大事だろう。それもポジティブな捉えしかできないような文言やスタンプをすることが大事だ。
それから挨拶も大事。挨拶もせず押し黙っていると、人は「あの人怒っているのかな」と思ってしまう。決して自分がそのような状態ではなく、考え事で頭がいっぱいなだけだっとしても挨拶くらいはしておいた方がよさそうだ。
それは「親しき中にも礼儀あり」ということばが言い表していることでもある。どれだけ親しくても、相手は「この人は自分を攻撃している」とつい思ってしまうものである。たとえ長い付き合いで、自分の気持ちを相手は察してくれるという期待があったとしても自分から今の私はあなたに攻撃する意思はないですよ、ということをアピールした方がいい。
そして受け手としては、相手に攻撃の意思がそこまでないことを思っておくことも重要だ。たとえ返信がなかったとしても「忙しいのかな」となるべく強く思っておいた方がいいだろう。
そんなことを学んだ講座だった。はじめにも述べたが、この講座は大変面白いのでこの記事を読んで興味が出た方は残りの回をぜひ受けてみてほしい。

